人生100年時代、60歳以上の矯正に対する認識は変化しています。
そもそも、矯正治療に年齢制限はありません。
歯周病でなければ何歳までも年齢に関係なく矯正できる!とよく聞きますが、では本当に歯周病があると矯正治療が出来ないのでしょうか?
この気になる疑問を滋賀県大津市のほりい矯正歯科クリニックの堀井和宏先生に実際の症例と併せてお話を伺いました。
歯周病とシニア矯正の疑問に答えます!
Q:歯周病があると矯正治療が出来ないのですか?
A:そうですね。歯周病に罹患した状態では矯正治療を行うことはできません。
ただ、歯周病治療を行った後での矯正治療は可能です。
実際、60代重度歯周病治療後の患者様の矯正治療を行ったケースがあります。
Q:歯周病で矯正治療できない理由は?
健康な状態と歯周病の状態
A:歯周病とは細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患で、歯の周りの歯ぐき(歯肉)や、歯を支える骨(歯槽骨)などが溶けてしまう病気です。
矯正治療は、矯正装置によって歯槽基底の範囲で歯の移動を行います。
歯周病によって歯槽骨が溶けてグラグラしている状態では、矯正装置を用いての歯の移動は不可能です。
歯の基本構造
歯は歯槽骨に支えられ、歯と歯槽骨は歯根膜によって結ばれています。さらに、歯槽骨は歯肉に被われています。歯槽骨の土台となる部分を歯槽基底といいます
関連記事
- インビザラインで歯肉が下がる、歯肉退縮とは | オルソキャリア
- インビザライン矯正のリスク、歯肉退縮について説明しています。歯の基本構造や歯の動くメカニズムを紹介しています。
Q:歯周病治療後の矯正治療とは?
A:重度の歯周病治療を終了、歯周病の動揺により前歯が傾斜し、すき間ができた状態でした。
歯周病治療では前歯の傾斜やすき間は改善できません。
61歳女性の患者様は、前歯の傾斜とすき間が気になり改善を求めて来院されました。
「歯周病による歯槽性上顎前突」と診断し矯正治療を開始しました。
Q:どのような矯正装置を用いたのですか?
A:上下顎マルチブラケット装置を用いました。
Q:矯正治療期間と治療費は?
A:動的治療期間は1年2カ月でした。
矯正治療費は850,000円程度でした。
Q:シニア矯正のリスクは?
A:シニア矯正だからといって特別なリスクがあるわけではありません。
後に詳しく述べますが、矯正治療中は歯に矯正装置が装着された状態にあります。
歯周病の再発を防ぐためにもより丁寧な歯みがきなどが必要になります。
矯正治療に伴う一般的なリスクや副作用は以下の通りです。
1.最初は矯正装置による不快感、痛み等があります。数日間~1、2週間で慣れることが多いです。
2.歯の動き方には個人差があります。そのため、予想された治療期間が延長する可能性があります。
3.装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正治療には患者さんの協力が非常に重要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
4.治療中は、装置が付いているため歯が磨きにくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。また、歯が動くと隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。
5.歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がることがあります。
6.ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
7.ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
8.治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
9.治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあります。
10.様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
11.歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。
12.矯正装置を誤飲する可能性があります。
13.装置を外す時に、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
14.装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。
15.装置が外れた後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす可能性があります。
16.あごの成長発育によりかみ合わせや歯並びが変化する可能性があります。
17.治療後に親知らずが生えて、凸凹が生じる可能性があります。加齢や歯周病等により歯を支えている骨がやせるとかみ合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になることがあります。
18.矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。
Q:シニア矯正を始まる方へのアドバイスは?
A:
今回ご紹介した患者様は、表側の装置(マルチブラケット装置)を用いましたが、裏側矯正、マウスピース型矯正(インビザライン)等の装置での治療も可能です。
キレイな歯並びになることで、ブラッシングがしやすくなり歯周病の再発防止にも繋がります。自分の歯でよく噛むことは健康寿命を延ばす効果が期待されます。
矯正治療が進化しているように、歯周病治療も進化しています。
歯周病だからとあきらめずに、まずは歯周病治療をしっかりと歯周病専門医院で行ったうえで矯正の専門医院にご相談ください。
関連記事
- シニア世代の矯正とは?(60歳以上)|オルソキャリア
- 気になるシニア世代の矯正事情について、実際の治療例と併せてご紹介しています。
記事監修
ほりい矯正歯科クリニック
|堀井和宏先生
日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)
滋賀県大津市粟津町4-7 ☎077-537-8203